ものはためし

書く訓練、備忘録

10年前の日記を今書く

梅雨の夕方。キッチンの上だけ電気がついていて、部屋の残りの部分は、うす暗い。大きな食卓にひじをつくと、湿気で少しぺたっとなる。いすからぴょんと降り立って、これまた湿気を帯びている床を、はだしで歩く。わたしはお母さんに玉ねぎを炒めさせてもらう。先に宿題をやればいいのにと言われる。わたしは、いいの、あとでやる、と答える。宿題よりも、野菜を炒めるときのじゃんじゃんいう音の方が、ずっと好き。

 

窓から外の雨を眺めていると、こんな情景が浮かんできた。小学生くらいのときの記憶だろうか。しかし母親が私に宿題を済ませたか確かめてくるようなことはあまりなかった。もしかしたら後から自分で作った偽の記憶なのかもしれない。どちらにせよそれは、わざわざ日記に書くほどのことでもないくらいの、日常の一部である。それなのに、ふとした瞬間に浮かんできて、懐かしさとともに幸福感をもたらすのはなぜだろう。

 

 絵が描けたらいいのに。こんな風にイメージが浮かんできたときいつも思う。机に触れた感触や部屋の空気、フライパンの音、においなんかをそっくりそのままアウトプットする方法があればなあ。絵だって全ては表現できないし、そもそも絵は描けない。今のところ他によい方法が思いつかないので、仕方なく言葉にしている。まあそれはそれでいいのかもしれない。楽しいから、なんでもいいや。もっと上手に書けるようになったら、もっと楽しいのではないか。そして、たくさん書いていればうまく書けるようになるのではないか。そんな簡単な理由で、今日も書く。