ものはためし

書く訓練、備忘録

熊を愛す

「テディベアを愛する自分を愛していたのかも」と姉が言った。子供の頃持っていたテディベアの話だ。姉は何歳かの誕生日に親からもらったテディベアを「ティース」と名付けて可愛がっていた。その名前には確か意味があったはずだが忘れた。わたしは姉が羨ましかった。自分もテディベアが欲しかった。そういえば昔から家に古いテディベアが居た。上の兄が幼い頃に友達からもらったものだ。わたしはそれを自分の熊にすることにして、「ティモシー」と名付けた。

わたしはティモシーを可愛がった。服を着せ、いつも一緒に眠り、旅行にまでも連れて行った。しかしわたしの目はいつも姉が持っているティースに向いていた。ティースの方が可愛く見えた。もし姉がティースをわたしにくれると言えば、大喜びでティースをもらい、すぐにティモシーのことは忘れ去ったに違いない。

 それでもわたしにはプライドというものがあったので、姉の前では特にティモシーを可愛がってみせた。ティースよりもティモシーの方が絶対に可愛い、と贔屓してみたりもした。

最近になってやっと姉に白状した。わたしはティースを可愛がるあなたが羨ましかっただけなのよ、と。すると姉はこう言った。「知ってたよ。でも、わたしもティースのことをそれほど愛していなかったと思う。ただテディベアを愛する自分を愛していたのかもね」

 驚きと納得とが半分ずつ。そうだったのかと思う一方で、言われなくても分かっていた気もする。一体わたしたちは何をしていたのだろう。熊を愛さなかったわたしたちはいつか誰かを愛すのだろうか。