青みがかった灰色のとき
雨だ。目が覚めたらお昼だった。また午前の授業を休んでしまった。今日も、朝がなかったな。午後の授業には行かなければ。気持ちは急いても身体がゆっくりしか動かない。階段をのろのろおりて門を開ける。
2つの笑い声が近づいてきた。見ると、肩車をした親子が坂を登ってくる。父親の肩に乗った4才くらいの男の子が大きな傘をさしている。父親がしきりに「がんばれ〜」と言う。いや、がんばるのはあなたではないか、と思ったが、子どもが大きな傘をさすのを応援しているのかもしれない。そして2人は、始終楽しそうに笑い声をあげているのであった。
思わず笑顔になってその姿を見送った。後から考えると、平日の真昼間に、スーツを着た若い父親と小さい子どもが歩いているのは少し不思議ではある。何か特別な日だったんだろうか。
幼い頃の自分のことを考えた。父親に肩車をしてもらったか。してもらった気もするし、そんなことはなかった気もする。あまり記憶にない。代わりに、母親と1つの傘に入って「太った人ごっこ」をしたことを思い出した。雨の日に駐車場から、少し離れた家まで歩くときの記憶だ。傘からはみ出ないように、ぎゅっとくっついて歩く。「くっつけば、太った人くらいのはばになるから、1つのかさでよゆうだね」小さい私はキャッキャと笑った。
スーツの父親の肩にのって大きな傘をにぎりしめていた男の子も、いずれ大人になる。雨の日にふと、今日のことを思い出すだろうか。
今日も特にオチはない。この出来事から何も学んでいない。センチメンタルの一言で片付けてしまえるこの瞬間を、ただ、言葉にして残しておきたかった。それだけ。以上。