ものはためし

書く訓練、備忘録

プードルの話を聞いてほしい

ある朝、野良プードルがいた。そんなわけないだろうと思うかもしれないけど、ほんとにいたんだ。駅までの道の途中、人間と一緒じゃなく、プードルだけがとぼとぼ歩いていた。わたしがじろじろ見たらこっちを見上げてきて目があった。

よく見ると赤い首輪をしていた。ひもは付いていなかった。つまり、野良じゃなかった。困惑しつつも、電車に遅れるわけにいかないので先を急ぐ。

 

コンビニの前に猫がいた。その猫もわたしを見つめてきた。わたしがコンビニに入ると猫もついて入ってきてしまった。コンビニに猫!!連れ込んでしまった責任を感じる。店員さんは猫に気づいていたけど、レジの客が途切れないからどうしようもなく、接客しながらも「猫が!猫が!」と慌てていた。猫は自動ドアを入ってすぐのマットのど真ん中におすわりして、出入りする客をじっと見上げていた。そういえばその猫も首輪をしていたな。野良猫じゃないのか。どうなってるんだ。

 

その日は仕事で面倒なことが起きたので落ち込んで帰った。クーラーの効いた部屋でごろごろしていたら週末が溶け、月曜。駅までの道の途中、今度は探し犬の張り紙を発見する。まさか。やっぱり。茶色いプードル!わたし見たよ!目があったよね!およよ。

あのとき捕まえておいたらよかったと思った。プードルは大丈夫だろうか。今頃熱いアスファルトの上で倒れていないだろうか。

実を言うとわたしは犬が触れない。子どもの頃から犬はこわい。たとえかわいそうなプードルでも手を差し伸べられない。それにあのとき万が一というか、もしも奇跡的にものすごく勇気が湧いて犬を抱き上げていたところで、その時はまだ張り紙も見てないわけだから一体どうしようがあったのだろう。交番に届ける?犬って遺失物扱いになるんだったっけ?電車は?乗り遅れたら仕事は遅刻だった。いや、もっと早く家を出ていれば交番に届けても仕事には間に合った。

張り紙に書いてある番号に今更電話をかけても仕方なかろう。「先週犬を見ました」と言ったところで、そりゃ先週逃げたんだからそうだろう、そこで捕まえといてくれよ、となろう。

嗚呼、可愛そうなプードル!そして、プードル及びその飼主に対して何の力にもなれなかった情けないわたし!

もはや犬がかわいそうなのではなく、わたしはわたしが惨めで泣いた。

 

いつもこんなだ。いつもいつも、こういう話を聞いてほしい。