ものはためし

書く訓練、備忘録

21号 / 生きています

今年3度目の台風が来るのでスーパーに食料を買い込みに行った。マンションの入り口で下の階の住人に会って挨拶したけど名前は知らない。

あと少しでスーパーというときに、ブルドッグとすれ違った。ふがふが言っていた。その息づかいで、学校の帰りにひとりでイノシシと遭遇したときのことを思い出してちょっと怖くなった。

怖いときって人に言いたい。日常に怖いものはたくさんあって、暗いところとかドアを開ける瞬間とか壮大すぎることを考えたときとか、全部ひとりでやり過ごせる程度の怖さだけど、誰かに話せる方が絶対に楽だと思う。人に頼らないでも何とかなるからって、頼らない理由にはならないんだからひとりになろうとしないで、できるだけ楽にいこうや。

ベランダで育てているネギの鉢を玄関に入れた。前の台風のときには入れてやらなかったので鉢ごと倒れて土がほとんど飛んで行った。倒れたままにしているとネギは上に向かって生えるため直角に曲がった。それで、鉢を縦に直すとネギが真横に向かって生えていて滑稽だった。

物干し竿も部屋に入れた。飛んで行ったら危ないし、なくなったら困る。そういえば子どもの頃、物干し竿を売る車が家の近くをよく通っていた。「たけや〜さおだけ〜」みたいなやつ。ぼったくりで有名なので、絶対に呼び止めてはならないと家族に教えられた。最近全くそのメロディを耳にしない。田舎にしかないビジネスなのかもしれない。

前の台風のときの反省から、窓の外のシャッターを下ろした。窓に雨が吹き付けて割れたり浸水したりしないようにというのと、外の様子を見て怯えたってしょうがないから見ないで平和に過ごすために。この部屋に住み始めて3年目になるが多分シャッターを下ろすのは2回目だと思う。初めてのときは開け方が分からなくなって、もう一生ベランダに出られないんじゃないかと焦った。外から開かないようにカギがひっかかってるから、それを引っ張りながら開ければいいってことはもう知っている。

 

台風が去った。

外が静かになってだいぶ経ってから窓の外のシャッターを開けた。気づかなかったがもう夜ですっかり暗かった。

珍しい人から安否確認の連絡が来て驚いた。私に興味がないと思っていた。件名が「生きていますか?」だった。辛いのが好きなのに甘口のレトルトカレーを食べながら、ぼーっとそれを読んだ。

なんか、もうちょっと軽やかに生きられんかね。いつも何かを考えていないといけないルールなんてないし、もしあったって別に従わなくていい。何のためにこんなものを書くのかなんて考えずに書けばいい。そうだ、簡単に悲しくなったりしない決意を、したんだった。冷蔵庫で冷えていた梨をむいて食べた。こういうひとつの幸せで私は生きられる。