上から下へ
突然「走らないか」と誘われたので、深夜に走ってきた。海を目指して。
ゆるいペースで走っていたが、案外すぐ海まで行けた。おしゃべりしながらだったというのもあるし、下りだったからというのもある。
風をきって走るのは気持ちよかった。それ以上に、深夜に海を目指して走っているという状況に、わくわくしていた。
海を目指して流れていく川の水は、こんな気分なんだろうか。いや、少し違うかもしれない。川の水は、いったん下ると同じ道を帰ってくるということは決してない。海にたどり着いた私は、もうその先へは進まない。今度は家を目指して坂を登らなければらならないのだから。
何にでも共感しようとする。何にでも共感を得ようとする。そのどちらなのか、どちらもなのか。私には川の水の気持ちなんて一生わかりっこないし、もちろん川の水は私の気持ちを理解しないのに。
夜の海は黒かった。道も黒かったから、海と道の区別がつかなくなって、落っこちるのではないかと思った。海は波打つ。道は波打たない。私は海に落っこちなかった。
川を流れる水は腐らない。動いていれば腐らないのか。動き続けなければ。進まなければ。